朝から家に警察が来た話
今朝は7月にしては珍しく気温が低く清々しかったので、久しぶりに散歩をしてきた。
家に戻り、汗を流すために軽くシャワーを浴びる。
風呂から出たタイミングで「ピンポーン」と玄関のチャイムがなった。まだ朝の8時過ぎのことだ。
宅急便も心当たりがないし、こんな朝っぱらからってことはきっと宗教の勧誘かな、と思いながらインターホンの画面を見たら、背中に「POLICE」と書かれた上着を着た男性が後ろ向きで立っていた。なぜ後ろ向きなのかはわからない。POLICEを強調したかったのだろうか。
しかし、朝から警察に来られる心当たりなんて全くない。
玄関の外はなんだか慌ただしく、ただならぬ気配を発していた。ひょっとして殺人事件でもあったのか。それとも転落事故かはたまたストーカーか。
ちょっと驚いて、あわててその辺にあった服を着て玄関を開けたところ、警察官が3人いた。僕の住むフロアをバタバタと行ったり来たりしている。
チャイムを押した警察官が僕に尋ねた。
「すみません、ひょっとしてお宅で犬を飼われていますか?」
「いえ飼ってませんけど」
「マンションの敷地内でワンちゃんを保護しまして、今一軒ずつ訪ね回ってるところなんです。トイプードルなんですけど、心当たりないですかねえ」
見ると、その警察官の足元で、人懐こそうな茶色いトイプードルが尻尾を振っている。とてもかわいいワンちゃんだったが、僕と目が合うなり、いきなり「ガルルル」と戦闘体制に入った。
僕は犬に吠えられやすい体質で、道を歩いているだけでもたいてい近所の犬から喧嘩をふっかけられる。外で飼われている犬なら紐を引きちぎりそうな勢いで飛びかかってくるし、小さな室内犬だって窓ガラスが割れるかと思うほど突進してくるのだ。
茶色くかわいいトイプードルも、今の僕の前ではただ目つきの悪い凶暴犬になっている。
「そういえば何度か、小型犬を抱っこした女性とエレベーターで居合わせたことがあります。」
そう伝えると、困っていた犬のおまわりさんは少し安堵した表情で礼を言って去っていった。
エレベーターで鉢合わせした小型犬も、女性の腕の中で僕を見ながら大暴れしていたのを思い出した。
言っておくが、僕は決して犬嫌いではなく、むしろ好きなほうである。犬の方が寄り添ってくれないだけなのだ。寂しい。
大きな事件でなかったのは良かったしむしろ拍子抜けしたのだが、それよりも驚いたのは、今どきは迷子の保護犬に警察が動いてくれるものなんだということだ。
僕の子供の頃はまだ放し飼いの犬や野良犬が多く、首輪の有無でどっちなのかを見分けていた。捨て犬も多かったし、通報するとしたら保健所で、飼い主が現れなければとっとと殺処分というのが標準スタイルだった。今の若い人が聞いたら卒倒するんじゃないだろうか。
そんな感覚がまだどことなく残っているので、警察がワンちゃんのために右往左往しているということに「ああ、日本は平和でいいな」としみじみしてしまったのである。